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クリック最優先 まとめサイト、不信の連鎖(ルポ迫真)



これまでの経緯

 

クリック最優先 まとめサイト、不信の連鎖(ルポ迫真)

2016/12/27 2:30日本経済新聞 電子版

 「申し訳ございませんでした」

 8日朝。ディー・エヌ・エー(DeNA)社長の守安功(43)は、深々と頭を下げた。特定のテーマの情報をネット上でまとめて提供する「キュレーションサイト」を巡る不祥事で謝罪会見を開いた翌日のことだ。前夜と同じ言葉だが、その相手は任天堂社長の君島達己(66)だった。

キュレーションサイトの問題で謝罪するDeNAの南場会長(右)と守安社長(7日、東京都渋谷区)

 7日夜の謝罪会見は3時間以上に及んだ。心身ともに疲労を隠せぬ守安だったが、息つく暇もなく新幹線に飛び乗り、京都にお忍びで向かった。「提携解消になるかもしれない……」。その不安を振り払いたかった。

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 2015年にスマートフォン(スマホ)ゲームの開発で任天堂と資本提携したDeNA。大型作品の「スーパーマリオラン」の配信が間近に迫っていた。不振が続くゲーム事業立て直しに向けた期待の新星だ。ようやく育ち始めたメディア事業が揺らぐなか、ここで関係を切られるわけにはいかない。優しく出迎えた君島の姿に、守安は安堵の表情を浮かべた。

 しかしキュレーションサイトを巡る問題が解決したわけではない。騒動の震源となった医療情報サイト「WELQ」。秋口から「肩こりは幽霊が原因かも」といった不適切な内容を批判する専門家らの指摘が相次いでいた。「個別の投稿者の誤り」といった問題にとどまらなかったのは、DeNAが「2つの顔」を使い分けてきたからだ。

 DeNAは運営する10のキュレーションサイトを「プラットフォーム」とうたってきた。キュレーションは学芸員を意味するキュレーターに由来する。本来は投稿者が書いた記事を掲載する場所貸しビジネスだ。

 プラットフォームの場合、掲載情報の責任は原則として投稿者にある。運営者を守る法律でも問題が起こった場合は原則的に事後対応でよいとされている。実際サイトでも「情報に責任は負わない」と明記していた。

 ところがDeNAはもうひとつの顔を使いビジネスをしていた。自ら情報を発信する「メディア」として記事を量産して広告料を稼いでいた。

 DeNAの編集部では1文字1円以下で外部ライターに記事を大量に発注。広告収入の単価が跳ね上がる検索上位に選ばれるように、書き方も細かく指南していた。

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 「何が起きているのかを知りたい」

 11月上旬。守安はひそかに社内で問題を巡る対策組織の設立を指示していた。ネットでのサイトの「炎上」をみて、キュレーション事業の運営の実情を把握できていなかったと気づいたためだ。守安自身も数字の裏側を見抜けていなかった。

 キュレーションサイトを手がけるメディア事業部。責任者はサイバーエージェントの新卒1期生の村田マリ(38)だ。自ら立ち上げたキュレーションサイトを14年にDeNAに売却してポストに就いた。村田自身はシンガポール在住。入社後も遠隔から指揮を執る。

 15年4~6月に3億円に満たなかった売上高は16年7~9月に約15億円と急成長。9月には閲覧者数が10媒体合計で月1億6000万人に迫り、単月黒字を達成した。

 その一方で稼ぎ頭だったモバイル端末向けのゲーム事業は失速。16年3月期の連結営業利益は3年で4分の1近くまで縮んだ。新しい収益源を確保したい――。サイトの閲覧者数を重要指標に位置づけた判断が暴走の引き金になった。

 ネット上のマーケティングを担うグロースハック部はネット検索結果の上位をめざし、ひたすら閲覧者数の増加に心血を注いだ。記事はクリックされることを最優先事項としてテーマ、内容、分量を決めた。その姿は社内でも「まるでゲームを攻略するかのようだった」と映った。インテリア情報の「iemo」、食関連情報の「CAFY」……。DeNAのサイトは上位を独占した。

 「このやり方は間違っている」。もちろんメディア事業の強引な方針に異を唱える社員もいた。他の事業で実績を上げた優秀な人材も投入されたが、方針に沿わない社員は事業部の中で居場所を失っていった。

 「成長を優先し、管理体制ができていなかった」と守安。謝罪会見では「(個人間取引の)メルカリなど他のベンチャー企業の成長に焦りがあった」と自らに問いかけるように打ち明けた。

 DeNAのキュレーションサイトを巡る不信は他の企業にも野火のように広がった。情報の信頼性を揺るがす問題を生んだ理由と構図に迫る。

まとめサイト 不信の連鎖(2)うちは大丈夫なのか

2016/12/28付日本経済新聞 朝刊

 「うちのサイトは大丈夫なのか」

DeNAに端を発したキュレーションサイト不正の影響は他社にも広がった

 サイバーエージェント社長の藤田晋(43)は、ネット上の情報をまとめたキュレーションサイトを巡る問題の広がりに気をもんでいた。藤田が「自分の時間の95%を注いでいる」と熱を入れているのが「マスメディアになる」ことだからだ。

 テレビ朝日と4月に始めたネットテレビ局「AbemaTV」はその柱。ディー・エヌ・エー(DeNA)の問題が飛び火すれば、時間をかけてきたプロジェクトがつまずく。配信から約半年でアプリのダウンロードが1000万の大台を達成した直後の出来事。悪影響はじわりと広がってきた。

 「株価が軟調な理由のひとつはキュレーションサイトの問題が影響しているのではないか」

 12月16日、東京都渋谷区に立つセルリアンタワー東急ホテルの大宴会場。サイバーの株主総会で質問が飛んだ。株価は10月末に比べ1割ほど安い2800円前後にとどまる。メディア事業担当の常務、小池政秀(41)は「足元はキュレーションの影響だろう」と率直に認めた。

 DeNAに端を発したキュレーションサイト不正の影響は瞬く間に広がった。リクルートホールディングス、ヤフー、KDDI……。大手も次々と運営するサイトの情報削除を始めた。

 就職情報を1960年代から手がけ情報発信の知見が深かったはずのリクルート。同社のサイト「ギャザリー」は健康関連を中心に4分の1にあたる1万6000の記事が、数日で消えた。著作権侵害の可能性がある投稿を検証するためという。

 著作権法に詳しい骨董通り法律事務所の弁護士、小林利明(35)は「米国に比べ日本はネット上の著作権への意識が高くない」と指摘。それが今回の問題の一因になった可能性がある。

 「最初の情報発信者の権利を保護します」。LINE(ライン)が5日開いた情報サイトの説明会で上級執行役員の島村武志(40)は話し始めた。同社の「NAVERまとめ」の閲覧数は月に26億回に達する。投稿記事は自社でチェックしているが、実は3本に1本はボツになる。「事前に不正の芽を摘み取り非公開にしている」からだ。

 それでも著作権侵害を指摘する声はネット上で絶えない。記事を無断転用されたライターたちが企業を訴えようとする動きも出てきた。次はどこか――。広がる野火に各社は身構える。

まとめサイト 不信の連鎖(3)グーグル検索をだませ

2016/12/29付日本経済新聞 朝刊

 「当社は掲載された記事には一切関与していません」

グーグルは複製ページに目を光らせるが…(米国のデータセンター)

 11月30日、ライオンは1枚のリリースを発表した。同社の機能性表示食品「ラクトフェリン」が、放射能汚染やがんに効果があるという記事がネットに流れ出したからだ。

 「表示以外の効果もあったんですね」。ライオンの担当者が気付いたきっかけは消費者からの1本の電話だった。その消費者はライオンが認めた新しい「効能」だと思い込んでいた。

 記事が載ったのは医療情報をまとめたディー・エヌ・エー(DeNA)のキュレーションサイト「WELQ」。記事の隣にはライオンのネット広告があった。健康や自社製品に関連するページに自動的に広告を掲載するよう代理店と契約していたからだ。記事の閲覧回数が伸びればDeNAが得る広告収入は膨らむ。WELQの広告料は業界内でも高めの設定だったが、月に延べ2000万人を超える閲覧者の数が「価値」を上げた。

 ウェブサイトが誕生して四半世紀。いまやネット上には130兆ものページがある。利用者に見つけてもらうには、検索結果で上位に表示される必要がある。そのための技術のひとつが検索エンジン最適化(SEO)だ。本来は利用者が情報を見つけやすくする技術だが、DeNAはそれを逆手に取った。

 利用者に必要な記事を発信するのではなく、SEOの技を駆使して検索で上位にくる記事を意図的に作っていた。7日開いた記者会見で社長の守安功(43)も「(サイト作りが)SEOに寄り過ぎた」と漏らした。

 もちろん検索エンジン側も自衛策を講じている。グーグルはキーワードを乱用した情報や無断複製があるページは順位を下げ、悪質な場合は表示しない。ただ、その警戒網をかいくぐる技術も次々と生まれている。

 「リライトツール」と呼ばれるソフトもそのひとつだ。他人の記事のコピペ(切り貼り)では盗用がすぐ発覚する。そこで特定の単語を置き換えたり、文章の一部をランダムにシャッフルし合成したりする。いったん他の言語に翻訳し、日本語に戻して痕跡を消すものもある。こうした技術が「記事の粗製乱造を生んだ」(ソフト会社)。

 「結局、ユーザーにとって役に立つコンテンツを作ることが重要なんです」。グーグルで検索技術の伝道師役を担う金谷武明(45)はSEOのコツをこう話している。

まとめサイト 不信の連鎖(4)責任なき情報量産

2016/12/30付日本経済新聞 朝刊

 「うちと直接契約して書きませんか。口外はしません」

クラウドソーシングのサイトには記事制作の案件が並ぶ(大手のランサーズのサイト)

 フリーランスとしてIT(情報技術)関連の仕事をする小山浩靖(仮名、34)。ネット上の情報をまとめたキュレーションサイトの下請け会社の担当者から「ライターにならないか」と声をかけられた。下請け会社が「クラウドソーシング」経由で発注していたライターの求人に小山が応募していたからだ。

 クラウドソーシングは企業が外注する様々な仕事を個人に依頼する仲介ビジネス。イラスト制作からシステム開発まで仕事の幅は広い。仲介する企業が成約時に働き手から5~20%の手数料を得る仕組みだ。

 まとめサイトの下請け担当者が直接契約でライターに勧誘したのは、仲介企業を中抜きして手数料を省くのが狙い。少しでも安くサイト用の記事を集めるためだ。小山は原稿用紙1枚分400円で仕事を引き受けた。

 ベンチャー企業が中心になり立ち上げたクラウドソーシング。いまでは数多くの企業が手がけ、業界の推定では330万人が、この仕組みを利用して働く。様々な仕事があるが、現在の稼ぎ頭は「ネット向けの記事制作」だ。大手では売上高の3割ほどを占める。

 クラウドソーシングは「一般的な企業による雇用とは別の新しい働き方を提案した」(シンクタンク)と評価する声も多いが、まとめサイトを巡る不正の温床のひとつになっていた。コストを抑えて仕事を外注できる仕組みが、情報の大量生産の手段として利用された。

 「仕事はなくなるのか」「依頼のルールは変わるのか」――。クラウドソーシングの草分けのランサーズ(東京・渋谷)は、登録する働き手の問い合わせメールの対応に追われた。社長の秋好陽介(35)は12月の社内会議で「売上高が半分になっても対策が優先だ」と社員に訴え、規定の見直しや不正防止システムの開発を急ぐ。

 ディー・エヌ・エー(DeNA)に端を発したまとめサイトの問題はネット社会の課題を浮き彫りにした。情報の発信源や流れが複雑になるなか、ネット広告など様々な周辺ビジネスも生まれた。働き方にも影響を与える。氾濫する情報との付き合い方を一人ひとりが身につけなければ、不信の連鎖は止められない。





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