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創造する未来に向かう地図 構想計画は「事業の理想計画」



創造する未来に向かう地図 構想計画は「事業の理想計画」

事業構想家が事業を進める指針となる「構想計画」。それは地図のようなものであり、自分たちの現在地点と目的地を示してくれる。事業の「理想」を実現するためには、構想計画の立案がひとつのカギとなる。

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©H.AZUMA

構想計画≠事業計画

事業構想サイクルの旅も終盤にさしかかってきた。「発・着・想」「構想案」「フィールド・リサーチ」ときて、「構想計画」である。創造的なアイデアを「構想案」にまとめ、現場での検証をへて「構想計画」としてねりあげる。事業構想サイクルの一つのアウトプットであると言っていいだろう。構想計画こそが事業構想家が事業を進めていく指針となるものである。

「構想計画」の類似の言葉として「事業計画」という言葉がある。事業計画は、事業のコンセプトやビジネスモデル、ワークフローや収支計画といった事業を成り立たせるための基本的な項目を具体的に表明し、利害関係者の理解や合意をえるための手段として使うことが目的である。「構想計画」は「事業計画」と同じではない。「構想計画」は「事業の理想計画」である。そこで計画される内容は、「理想モデル(事業の発案者/計画者が理想とする究極のビジネスモデル)」の構想を前提としたうえで、その理想モデルに対して「初期モデル」や「基本モデル」というより直近のビジネスモデルを構築し、その転換の道筋を描き出すものである。今回はこの構想計画の立案について述べてみたい。

計画とは進むべき方向性を示す地図

「計画」の定義は、何らかの目的を達成するために、どのように行動するべきかを定めたものである。一度たてられた計画には、その計画どおりの行動をとることが暗に求められている。

「計画」についてはさまざまな分野の知見がある。都市計画の分野、ITのプロジェクトマネジメント、行政計画、そしてお馴染みのPDCA等々である。都市計画では、「基本構想(グランドデザイン)」「基本計画(マスタープラン)」という言葉が用いられており、基本計画は、基本構想を実現させるためのガイドラインとして設定される。

これは、構想案と構想計画の関係に似ているように思われるが、基本計画の策定手法に関しても合意された方法が存在するわけではない。ITのプロジェクトマネジメントにおいては、完成品の姿(製品仕様)が設定されたのちに、ロードマップ、マイルストーンを設定し、計画が立案される。

これらの方法から学ぶべき点は非常に多く、事業構想を試みる方は、常に様々な分野からの知見を吸収する心構えを持つ必要がある。しかし、これまで見てきたバックキャスティングや未来学の発想からみるとこれまでの「計画」の概念では少し不十分な点も見え隠れする。われわれは、「創造する未来」に向かって、いきもののような事業を構想し、計画する。計画は、短期、中期、長期と時間軸をともなって作成されるが、その時間軸に沿って、事業を取り囲む環境も事業そのものも変化する。短期の計画の積み上げを中期、その積み上げを長期とするアプローチは、進化し、適応する事業の計画枠組みとしては望ましくない。

また、「計画」という言葉には「何かを決める絶対的な存在」による、トップダウンの雰囲気がある。管理のための計画ではなく、必要なのは進むべき方向性を示す地図のような「計画」ではないだろうか。風向きや波の高さによってわれわれの進む道は異なるかもしれないが、地図があれば自分たちの現在地点と目的地を示してくれる。

「構想計画」は構想家が目的地に到着するための地図として機能するものである。

事業の生態系 ノルウェーの食品産業クラスター

事業の生態系─事業における相互依存関係

その地図の特性としてどのようなものが考えられるだろうか。とにかく正確に記載することが重視されるのだろうか。ここでは代表的な特徴として、事業の生態系的把握と事業の非線形性を取り上げる。

至極当たり前のことであるが、事業は、社会の中に存在している。事業をおこなうには、人やモノ、金の流通が不可欠であり、必ず他の事業や産業と関わってくる。他の事業の動きは、自らにも影響し、それはさながら生物の世界のようである。さまざまな相互依存の関係の中でわれわれの事業はなりたっており、事業も生態系を構築している。この生態系を理解することは、より広範囲の地図を描く作業に似ており、自分がつくっている地図がさらに世界のどこに位置しているかを示してくれる。事業の生態系の理解として、具体的には、産業内の連関構造や自分自身のビジネスモデルを理解すること、ステイクホルダーや競合との関係性を把握することなどがあげられる。

産業内の連関構造を知るための一般的な方法としては、産業連関分析などがある。たとえば図ではノルウェーの食品産業クラスターの産業連関を分析している。農業(Agriculture)は、加工業や流通業にその生産物を卸し、最終的にレストランやホテルに到達する。逆にレストランから見れば、上流側に様々な業種が関わってきていることが分かるだろう。

こういった研究を参考に自身の業界の生態系を把握することで、社会のさまざまなところで発生している変化の影響を含めて対応することが可能である。また、ビジネスモデルやステイクホルダーの分析と合わせることで、効果的な連携先を発見することにつながる、あるいは予期しないリスクへの対応を考えることなどにもつながってくる。一つの方法としては、システム思考のトレーニングなどは事業の生態系把握に有益である。

事業の非線形性─「理想モデル」への道筋

次に、事業の非線形性という特徴がある。事業成長のライフサイクルを表現する研究成果をみると、事業は最初ゆるやかに成長し、その後急激な成長をむかえ、また減速するという曲線を描いている。このカーブはシミュレーションによっても再現できるが、売り上げの増加で投入可能な資源が増加すると、成長は加速するが、一定のシェアを超えはじめると成長が減速するという過程は、自然な流れとして理解して頂けるのではないだろうか。この成長曲線は、「線形(一直線)」ではなく、「非線形(曲線)」である。線形のものは計画を立てやすいが非線形の計画は難易度が高い。少しの初期値の相違が結果に大きな影響を与えるため、定量的に把握することはなかなか難しい。

こういった非線形を前提として考えるのであれば、むしろ事業のフェーズ(段階)ごとに理解するのがよい。フェーズごとの特徴点を見出し、各段階のビジネスモデルを描くことで、「理想モデル」への道筋をつけることが必要ではないだろうか。段階ごとのビジネスモデルにおいて目標値を定め、次のフェーズへと移行するタイミングを見定める必要がある。

バックキャスティングによる構想計画の立案

上述した内容に配慮しながら、バックキャスティングによって「構想計画」をたてていくことが望ましい。理想状態を達成するのだという強い責任感と当事者意識を持つための計画が重要である。これらの前提を考えると、構想計画では以下のような内容を検討する必要がある。

「理想モデル」

発着想や構想案構築の際に想定した「創造する未来」や「ビジョン」「使命」「価値観」を実現するための理想のモデルである。このモデルは、本連載でも取り扱ったビジネスモデルキャンバスやビジネスモデルハウス等で表現すると整理をしやすいが、基本的には、その事業の存在理由(「ビジョン」「使命」「価値観」)と事業の内容(価値提案、ターゲット顧客、マーケティング、事業に必要な資源と主要活動)などで表現され、理想モデルの実現によって達成されることを表明する必要がある。構想案の内容をより具体的に、リサーチ結果を伴って強化されたものである。

「現状モデル」

理想が定まった後で、次に現在地点を理解する必要がある。現状のビジネスモデルの分析を行い、現在達成されていることと「理想モデル」とのギャップをさぐるために「現状モデル」の分析を行う。「理想モデル」で定めたことが、現状ではどのようになっているのか、差分を見ることで、一つの行動指針があらわれでる。

「実現モデル」

「理想モデル」と「現状モデル」の中間点としての「実現モデル」を検討する。理想モデルと現状モデルを比較した際に、その差分が明確になるが、その差分を埋めながら、かつ実現可能なモデルをここで表現する。「実現モデル」を構築する際には、モデルの項目ごとのギャップを検討しつつ、ビジネスモデル全体の整合性を確認し、自立可能な中継的ビジネスモデルとして記述する。実現モデルは、必要に応じて、複数段階設定することもありうる。

「実現モデル」自体は、その名前が示す通り、実行可能な新しい事業形態である。そのため、この部分は、「事業計画」要素を含み、独立した企画書として機能するものでもある。事業計画書であれば、含まれるべき内容として、事業内容と投資の計画、財務分析や営業計画、マーケティング戦略、組織構造などが求められる。ここでは過去の経営学の知見をもとにしっかりとした研究を行うことも肝要である。また、構想案を固有名詞のレベルに落とし込んで、実際にどのような活動を行うか、イメージができるものを組み立てる必要がある。

「現状モデル」「実現モデル」「理想モデル」をつなぐ道筋

この3つのモデルは、質的に異なった3つのモデルである。質的に異なったモデルを繋げるためには、各モデルの前提となっている環境や文脈を明らかにした上でつなげていく。3つのモデルはそれぞれつながった一つの事業の時間軸から切り出されたものである。異なったモデルの間の整合性を担保していく必要がある。

ここでしっかりと「レトログレード」な分析を行う。「レトログレード解析」とはチェスの分析法に一種で、指定された局面にいたる手順を逆に推測していく方法である。理想的なビジネスモデルの要件を揃えるための工夫は、一つ前のビジネスモデルの価値提案や活動の中に組み込んでおくと一つのビジネスモデルの実現が次のビジネスモデルの土台構築に繋がっていく。この観点から考えると、実現モデルは必ずしも理想モデルの縮小系である必要は無く、理想モデルの実現に資するような全く別のモデルであることもある。こういった連続性を担保しておかなければ、ビジネスモデルのスムースな移行は行われず、結果として理想モデルは絵に描いたモチとなってしまう。

事業の非線形性

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事業の天候予測

地図ができあがれば、今度は天候の予測が必要である。天候の予測はほとんど当てにならないが、追い風が吹いている時はしっかりと乗っていくべきである。天候を予測するから、追い風を発見することができ、逆風が吹いてもその避け方が見えてくるはずである。

天候の予測としては、通常の外部環境分析、例えばPEST分析(P 政治 E 経済 S 社会 T 技術の動向分析)や市場分析、社会トレンド、競合分析などが該当する。PEST分析では「発・着・想」で登場した未来学の知見を活かすことができる。未来の市場環境や社会トレンドなども未来予測資料やニュース動向などから洞察し、想像する。

特に追い風と逆風はしっかりと把握する必要がある。リスクをすべて想定することは不可能であるが、逆風となる可能性のある未来イベントなどを抽出し、シミュレーションをしておくことで思考の上で準備することができる。リスク分析とその解決策、制約条件と障害、そして主要な支援要因を予測しながら判断をつみあげていく。

また、天候をみるということは、計画に柔軟性を持たせることにもなる。計画の目的は定められたルートを通過することではなく、目標に近づくことである。目標に近づくことができる別のルートを発見したら、ルート変更もありえる。ただしその場合、目的地だけは明確でないと乗組員は方向を見失ってしまうことになる。

新しい航路開拓に乗り出した鄭和の航海図

出典:Wikipedia「鄭和」より

構想を物語る

自分の事業を取り囲む地図と天候の予測が完成すればあとは魅力的なルートの設定である。この設定されたルートが一つのストーリーとして構想計画に落とし込まれてくると、魅力的な「事業の旅」がみえてくる。「現状モデル」「実現モデル」「理想モデル」の流れが必然性をもっていなければストーリーには昇華していかない。

この局面に至ると構想計画の作成には、物語の語り手としての能力が強く求められてくる。主役たる事業はどんな事業なのだろうか、物語の中で何が起こるのだろうか。構想計画の中にも人をひきつける魅力的な言葉と物語が必要である。起伏が無い物語では、人をひきつける魅力がうまれないかもしれない。

書き手の性格や事業の性質にもよるだろうが、正しい「構想計画書」は存在しない。「構想計画書」が正しかったかどうかは過ぎ去っていく時間のみが示してくれる。ただ、事業構想という冒険の地図と物語の質は、その冒険の参加者の気持ちを大きく左右する。

「理想を実現するためのストーリー」である事業構想計画を携えることができれば、その冒険は悔いのないものになるだろう。





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