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量産はお任せ ハードベンチャーの救世主、日本にも登場



量産はお任せ ハードベンチャーの救世主、日本にも登場
2015/8/31 3:30日本経済新聞 電子版

「ハードウエアスタートアップ」と呼ばれるような、独自のハードウエアを軸にサービスを展開するベンチャーの起業が盛んだ。これまで米国が中心だったが、最近では日本発のハードウエアスタートアップが増えてきた。事業化する上でのハードルは幾つかあるが、日本での最大の課題は製品を量産することだ。そこで、日本の製造技術を活用し、スムーズな量産を支援する“黒子”が登場している。国内における電子機器受託製造サービス(EMS)の最新動向を追った。

 量産に成功するのはわずか2割ほど――。これは、「Kickstarter(キックスターター)」や「Indiegogo(インディゴーゴー)」といったクラウドファンディングサービスで、目標額の資金を調達したハードウエアスタートアップのうち、実際に製品の量産に至った割合である。

 量産を前提にした試作品、いわゆる「量産試作品」を作る段階で、多くのハードウエアスタートアップが挫折する(図1)。そこで、ハードウエアスタートアップが自社製品を問題なく量産できるように支援する“黒子”役の企業や人物が日本で活躍するようになった。


図1 独自のハードウエアとサービスを組み合わせて事業を始めるベンチャー、いわゆる「ハードウエアスタートアップ」を支援する国内の“黒子”が登場している。十数個の試作品を作り、クラウドファンディングサービスで資金を調達後、量産できずに頓挫するケースが多い。この量産化の壁を乗り越えられるように、ハードウエアスタートアップの黒子が支援している

 最近増えているハードウエアスタートアップの多くが、もともとスマートフォン(スマホ)向けアプリケーションソフトウエア(アプリ)などを作っていたソフトウエア開発者が興した企業である。アプリだけでは差異化が難しいサービスを、専用のハードウエアと組み合わせることで独自性を高める狙いがある。

 ただし、ソフトウエア開発の出身者が多いだけに、「ハードウエアの量産に関する知識や経験が不足している」と、ハードウエアスタートアップの量産支援者の多くが口をそろえる。ハードウエアスタートアップは、ベンチャーキャピタル(VC)やクラウドファンディングで資金を調達したり、展示会に出展したりするのに必要なデモ用の試作品を、数個から数十個ならば作ることができる。

 ところが、1000個以上の量産を念頭に置いた量産試作になると失敗したり、手直しが繰り返されて予算を大幅に超えたりして、頓挫してしまうケースが多い。

■日本の製造技術を活用

 こうした「量産化の壁」を越えられるように、前述の黒子役が活躍している。支援する内容に違いはあるものの、共通するのは、日本の中小企業や工場などが持つ技術を活用して量産を成功させること。信頼性が高い量産試作品や量産品を作りやすいことから、日本の製造技術に着目している。

 特に日本のスタートアップに利点が大きい。中国や台湾、韓国といった他のアジア地域に比べて「イニシャルコスト(初期費用)は割高だが、昨今の円安の他、手直しや渡航費などを考慮した場合、日本の方が最終的に安価に済む場合が多い。

 しかも、携帯機器に搭載するような小型の電子部品は日本製が多く、「日本で調達した方が安価に済む」(複数のハードウエアスタートアップの量産支援者)。実際、日本で製品を量産する日本のスタートアップが増えている。例えば、指輪型端末「Ring」のログバー(本社:東京都)やメガネ型端末「雰囲気メガネ」の間チルダ(本社:岐阜県)、スマートロック「Akerun(アケルン)」のフォトシンス(本社:東京都)などである(図2)。こうした企業の製品は、黒子役が支援し、日本で量産した。


図2 日本で製品を量産する日本のスタートアップの製品群(写真:左はフォトシンス)

■この2~3年で問い合わせが急増

 「ここ2~3年でスタートアップからの問い合わせが急激に増えてきた」。こう語るのは、Braveridge(ブレイブリッジ) 代表取締役社長(CEO)の吉田剛氏である。雰囲気メガネをはじめ、日本のハードウエアスタートアップの製品を量産している。

 同社は九州・福岡に本社をかまえるODM/OEM(設計・製造受託)企業(図3)。CEOの吉田氏や同社 技術担当取締役(CTO)の小橋泰成氏は、大手日本メーカーの技術者だった。そこを辞めて2004年にBraveridgeを創業。しばらく休眠状態だったものの、2006年から本格的に活動を始めた。


図3 福岡に本社をかまえるODM/OEM企業のBraveridge(ブレイブリッジ)は、Bluetooth Smart(Bluetooth Low Energy:BLE)技術を軸にして、ハードウエアスタートアップを支援している(a、b)。ハードウエアの設計から量産、在庫管理まで、幅広く支援する

 同社はこれまで、大手企業の携帯電話機や車載のシガー充電器、FMトランスミッター、ACアダプターなどの製造を担ってきた。自社ブランドの製品も手掛けている。Bluetooth Smart(Bluetooth Low Energy:BLE)用の通信モジュールや、「くまモン」をかたどったLightningケーブルなどを開発した(図4)。


図4 Braveridgeは自社ブランド製品として、「くまモン」をかたどったLightningケーブルを開発した。自動車向けに、ハンドルに取り付けるスマホ操作のリモコン「KKP(くるくるピ)」をデンソーと開発し、クラウドファンディングサービス「Makuake」で資金を調達した。(写真: 左はMakuakeのWebページ)

 複数の大手企業と、製品の共同開発にも乗り出している。例えば、デンソーとともに自動車のハンドルに取り付けてスマホを操作するリモコン「KKP(くるくるピ)」を開発し、クラウドファンディングサービス「Makuake(マクアケ)」で資金を調達した。

 そんなBraveridgeがハードウエアスタートアップを支援するきっかけになったのはBLEだった。同社と取引があったBluetooth通信ICメーカーがハードウエアスタートアップと付き合いがあり、このICメーカーを通じて量産化に関する相談が舞い込んできた。その後はこうしたICメーカー経由の紹介の他、スタートアップ仲間からBraveridgeの噂を聞きつけたスタートアップが相談に来るようになった。

 Braveridgeは、同社で量産することを前提に、ハードウエアスタートアップを支援する。量産だけでなく、ハードウエア開発の初期から小売の段階まで、幅広い工程で支援する。例えば、ハードウエアスタートアップがまだアイデアしかない段階から支援する。在庫管理も担うこともあるという。

■BLEは不可欠

 Braveridgeは早くからBLEに関心を寄せていた。無線LANとのコンボチップが登場し、スマホで普及すると考えたからである。同社はBLEのモジュールの開発に取り組み、2013年7月から出荷を開始。同モジュールを搭載したビーコンも発売した。

 ハードウエアスタートアップが手掛ける電子機器は、BLEを使ってスマホと接続して利用するものが多い。一方で、ハードウエア開発の経験が乏しいスタートアップにとって、無線通信部分の開発は敷居が高い。それ故、Braveridgeがハードウエアスタートアップを支援する上で、BLE技術が強みとなる。

 スマホとの接続だけでなく、不良品対策の面でも、BLEの搭載はスタートアップには意味があると、CTOの小橋氏は説く。「仮にファームウエアに不備があって動作不良を起こせば、回収せざるを得なくなる。そうなれば、スタートアップのような小規模な企業ほど、回収の負担は重く、企業ブランドの毀損が著しい。ところが、BLEを搭載すれば、スマホ経由でファームウエアを書き換えられるので、このリスクを減らせる。極論すれば、実現したい機能やサービスにBLEが必要でなくても、スマホ経由のアップデートのためにBLEは搭載すべき」(同氏)。

 加えて小橋氏は、「BLEの通信ICは単なる無線通信のICではなく、マイコンのようなもの。それ故、ハードウエアスタートアップには、マイコンのファームウエアを作れる技術者を雇うように勧めている」という。

■「リーン化」を推奨


図5  FORMULAは、主に関東圏にある中小企業と協力して、スタートアップ企業のハードウエア開発を支援している(図はFORMULA のWebページ)

 日本にある中小企業の技術を結集し、ハードウエアスタートアップを支援する動きも出ている。東京に本社を構えるFORMULAはそんな1社だ。同社代表取締役の西野充浩氏は、プリント基板メーカーのキョウデン、EMS(電子機器の製造受託サービス)大手のシンガポールFlextronicsやアイルランドPCH Internationalを経て、FORMULAを2013年に立ち上げた(図5)。

 以前所属していた企業で培った経験と、中小企業とのネットワークを生かして、ハードウエアスタートアップの量産を支援する。例えば、前述のAkerunの他、ユカイ工学のコミュニケーションロボット「BOCCO(ボッコ)」、ブレインのPOSレジ「ブレインレジスター」などの製品化を支援している。

 ハードウエアスタートアップが成功する確率を上げる方法として西野氏が推奨するのが、「リーン化」である。新しい事業を小規模で始めて、市場からのフィードバックを基にして製品やサービスの改善に生かす。これを速いスピードで繰り返して、事業の成功率を上げる起業方法である。これまで、ソフトウエアのスタートアップで主に実践されてきた。

 ハードウエアスタートアップでは、「2年かけて100点満点の製品を作るのではなく、中核の機能はしっかり作り込みつつ、最終的に実現したい機能の7~8割にあえてとどめて、1年未満という短い期間で製品化する。その製品に対する市場からのフィードバックを基にして3~6カ月後に改善バージョンを出す」(西野氏)ことになる。言い換えれば、「市場に鍛えてもらう」(同氏)わけだ。

 これはスタートアップ側だけでなく、製造を請け負う中小企業側の姿勢も変える必要があるという。中小企業はこれまで、大手メーカーの仕事を請け負ってきたので、スタートアップに対する意識が高くはない。そこで西野氏が、こうしたスピード感や求める性能基準の違いを中小企業に説明し、リーン化を推し進めている。

■京都の“チカラ”で海外も支援

 「オール京都」を掲げて、ハードウエアスタートアップの試作品作りから量産まで、幅広い支援を目指しているのが、Darma Tech Labsが運営するプログラム「Makers Boot Camp(MBC)」である。同社の共同設立者である、牧野成将氏と藤原健真氏が中心になってMBCを進めている。両氏ともVCに所属しており、藤原氏は自らもハードウエアスタートアップに参加している。


図6 京都の支援プログラム「Makers Boot Camp」では、京都の中小企業が参加するネットワーク「京都試作ネット」の協力を仰ぎ、量産試作を支援する(図は京都試作ネットのWebページ)

 MBCでは、特に量産試作の支援に重きを置く。そこで、ハードウエアの設計・開発に必要な機械工学や電気工学の基礎教育を提供する他、京都にある中小企業が参加するネットワーク「京都試作ネット(KSN)」と共同で量産試作品を製作する(図6)。

 KSNは2001年に設立され、現在100社以上が参加している。KSNではこれまで大手企業の試作を請け負ってきたが、今後はスタートアップの試作品製作にも力を入れる。

 京都市内の中小企業の振興と地域経済の活性化を図る公益財団法人の京都高度技術研究所 (ASTEM:アステム)の協力も仰ぐ。ASTEMは、京都市が所有する工場を通じて、MBC参加者の支援を実施するという。

 MBCの第1期は2015年8月に開始。同年12月には、参加企業によるデモを予定する。第1期の参加者は日本企業だけになる見込みだが、その後は海外のハードウエアスタートアップの参加も促す考えだ。「ハードウエアスタートアップのエコシステムの中で、世界中で不足しているのが量産試作を支援する部分。それだけに、海外からのMBC参加を促したい」(牧野氏)。

 日本に比べて投資環境が整っている米国などの海外で起業し、量産試作を始める前の段階でMBCに参加してもらうことを目指している。実際、海外のハードウエアスタートアップを支援するアクセラレーターとも連携していく。アクセラレーターが提供する起業プログラムを卒業したハードウエアスタートアップに、MBCに参加してもらうことを考えている。

(日経エレクトロニクス 根津禎)





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